[2] いつもの朝
「マーー 起きろ。遅刻だよ」
ほぼ毎日、階下から聞こえてくる声、朝っぱらから、なんてヒステリックなんだ。
女ってのはなんでこんなヒステリック声を出せる動物なのだ。
まだまだあどけなさは残るが、正洋は毎朝思う。
撫でるように触った顎に若干の違和感を感じ、昨夜受けた一発の影響で腫れがまだのこっていることはわかったが、まあ、いつものことで、大したことではない。
ヒステリックな声を出せる女へ、「頑丈な体に産んでくれて感謝してる」と、思ったか思わないか、そんか一瞬ボーとした時間を布団の中で過ごし、ふとカレンダーを見た。
今日で1学期が終わる。
授業は午前中のみで、午後の部活は出ても出なくてもよかったはず。
まあ、今年は最終学年ということで、夏は、2年生以下への指導を兼ねた練習のみ。
いままでみたいに秋の大会に向けた気持ちになれないところではある。
「マーー君、行こーぜー」
いつものことだが、0815もうこんな時間だったのか。
早歩きで向かってギリギリ間に合う時間だ。
急いでこだわりの学生服に着替え、家を出た。
「おっはー」
厳つい顔に似合わず、流行りのテレビ番組のフレーズを使うところが、まだまだ中学生であることをうかがわせ、周囲の人間がどこかこの男を憎めないところでもある。
「マー君、今日、どこシメ行くよ?諫早まで行っちゃう?諫早シメたら一応長崎は統一ってとこだね。」
ラグビーボールを片手でもちながら、金髪のその男は、おちゃらけた表情で挨拶代わりに叫んだ。
「洋介うるせぇ。バーカ、まだ対馬が残ってんだろ?あそこが難所なんだよ。シメた後に、島の誰かに船で送ってもらわなきゃならないからなあ。」
通りすがりの三軒隣に住む老夫婦が、思わず後ろを振り返る光景はいつもながらで。。
「おはようっす。ながいきしろよ。」
「はい、おはよう」
老夫婦も良い子なのか悪い子なのか、いつも話のネタにはことかかない。
そんないつもの朝の光景だと誰もが思っていた。
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